今をさかのぼること5000年、
旧約聖書の頃のお話です。
地中海の青く輝く浜辺に、
一本のオリーブの樹がありました。
叡智の女神アテネによって創られた、
天の恵の象徴であるオリーブの樹。
知恵と愛を受け続けることによって、
実を結ぶという福音のもと、
その成長を祈る人々は、
ターコイズブルーの晴れた空の下、
哲学や信条を語り、歌を歌いながら、
丹精込めて世話をしました。
太陽の光と、人々の温さと叡智を糧に、
たわわに実ったその実は、
エネルギーに満ち満ちた輝く金色のオイルとなり、
人々に生きる力を与え健全な魂を育む
お手伝いをするようになったのです。
夕暮れ時、人々は浜辺に集います。
極上のオリーブオイルでこしらえた、
素朴なひと皿をさかなに、薔薇色に輝く葡萄酒を味わう。
それは、一日のお役目を果たした後の、
ほんの少しだけ贅沢なひととき。
新しい明日を生きるための大切な時間。
人々の談笑に相槌を打つかのように、
オリーブの樹も、さわさわと、うす緑の葉をゆらします。
多くの人に輝きを与える喜びを感じる中で、
オリーブの樹はいつの間にか、
自らの毎日を味わうことなど忘れ、
実をつけることばかりを考えるようになりました。
人々に喜んでもらいたい一心だったはずなのに・・・
愛を学びと糧に成長していたはずなのに・・・、
いつしかオリーブは、自ら勝手に高くそびえて、
力を誇示するようになりました。
人を見下ろす高い枝についた実からできたオイルは、
人の心までを「もっと大きく」と、支配するようになりました、
人を人と思わぬ変貌を、天が見逃すはずはなく、
いつしか裁きが下りました。
けたたましい音とともに、
幹は折れ、枝が朽ち果ててしまったのです。
・・・・・・どのくらいの時がたったのでしょうか。
全てが朽ち果てたかと思われたその根から、
小さな芽を見つけた時の人々の喜びよう・・
伝える言葉はありません。
ただ生きていてくれるだけでも素晴らしい、と、
大切に慈しんだことはいうまでもありません。
そんな人々の変わらぬ愛情と、
生かされたことへの深い感謝で満たされたオリーブの樹。
また、人々の集う浜辺で、
さわさわと緑の葉をゆらすようになりました。
そして再び、みごとな実をつけるようになっても、
もう二度と、高くそびえ立つようなことはありませんでした。
5000年以上も昔、
神の福音と裁きを受けた、オリーブの樹の話です。
学び続けること、誠実であること、
それが、
オリーブの樹が手に入れた、神からのメッセージ。
・・・・・実はこのオリーブの樹の魂は、
5000年もの時を経て、新たな福音を受け、
美しい万年筆となったのです。
未来を紡ぐ万年筆
その万年筆には、愛と叡智を糧に実を結ぶ
オリーブの樹の魂が宿っています。
うっすらと緑がかったベージュの柄からは、
さわさわと揺れるオリーブの樹の葉裏が、
繊細な輝きを放つペン先からは、
芳純なオイルの生まれる、輝く金の実が偲ばれます。
そのペン先から迸るインクの佇まいといったら!
Una penna di fontana ・・・
叡智の水を湛える泉、と呼ぶにふさわしい、
みずみずしい筆跡が溢れだします。
そんな命の泉のペンの使命は、物語を生み出すこと。
出逢う人はみな、自分の価値観と才能に目覚め、
自らの物語を紡ぐ旅に出ます。
生まれ出た物語に引き寄せられ、
また物語を生みだしていく・・。
そして、新しい物語と出会いが、
そこかしこに湧き出でる。
人たちに寄り添いながら、
万年筆自らもその能力を開花します。
冷静に分析を加えたり、 あっと驚くヒントを与えたり、
やさしく丁寧に過去の謎をひもといたり・・・。
そして誠実な励ましを贈ったり・・。
全ては Dance in the moment
出会いを楽しみ味わう瞬間に、
静かで温かなエネルギーが湧きあがり、
奇跡の物語が生まれていく・・。
そうやって生まれた、無数の小さな物語たち。
縦糸と横糸がからまるように、
つながって、やがて歴史の一遍となる。
想像もつかない心躍る未来が広がっていく。
万年筆に降りた福音、それは楽しみながら、
自らの道を選び取ることで、
未来は豊かになるということ。
先のことはわからないけれど、
一寸先は闇と言うけれど・・・、
わからないからこそ心は躍る、そして闇は必ず明ける、
そう信じて、万年筆は永遠に、物語を紡ぎ続ける。
心躍る未来を紡ぎだす、叡智の泉という名の万年筆。
2010年 9月22日 物語は物語を創造するという福音のもと 冨永のむ子