黒と見まごう美しい夜空のようなミッドナイトブルーの革の手帳は、
女神たちの囁くゴシップ話に、いささか飽きたところ。
次のやどり場を模索しています。
その手帳は実は宿帳。
不思議なことに、手帳自らが旅を繰り返しつつ、
宿った先にたどり着く旅人の、多くの人の想いを受け止めてきました。
宿帳のページは無限です。
記念すべき最後の一葉・・・
想いをつづる旅人の誰もがそう思い、
もはや何も書くスペースは無いかのように、見えるのに、
次の誰かが手帳を手にとると、
最終ページは相変わらず真っ白く広がり
それを見た旅人は吸い寄せされるように、
そばに置かれた、大きな羽のついたペンを動かすことになるのです。
終わることの無いページは、まるで人生・・。
だから手帳はあてどない旅に出かけるのでしょうか。
そんな旅のような毎日が新鮮なためか、
紺色の表紙には、紫色のステッチがほどこされていますが、
時を経てなお、革は艶を失うことがありません。
健やかな少女を思わせる、その真摯な出で立ちに、
旅人の多くは、黙って通りすぎることはできないのでした。
手帳はさまざまな場所を旅し、
たくさんの人と想いと笑顔を交わすのが嬉しくてなりません。
中でも手帳のお気に入りは、
ベルギーで出会った、日出ずるところの東の国から来たおばあさん。
冒険のさなか、ちょっぴり不安な手帳の心をなぐさめてくれたその老婆が、
本当は魔法使いのおばあさんで、
「人との出会いを大切に」
「未知へ飛び込む勇気を持つこと」
という二つのメッセージを伝えるために、
わざわざ箒にまたがってやって来たことは、手帳は知るよしもなく・・。
けれども、彼女が残したメッセージは、
羽ペンのうす青いインクから、真っ白いページを通して、
手帳の魂へとしっかりと記されたことは、言うまでもありません。
魔法使いのおばあさんは今も、
満足げに遠い空の下微笑んでいることでしょう。
旅人の想いを受け止めながら、
無限の出会いを秘めた旅を続ける、旅の宿帳。
FHさん、それはあなたです。